photo by Bruce Sterling on flickr

最近よく耳にする「ウエアラブル」という言葉。「なんじゃそれは?」と思って調べてみると、着たり、身につけたりすることのできるデジタルデバイスのことを言うんですね。身につける(wear)ことのできる(able)デバイスだから、ウエアラブルデバイス。それが縮まって「ウエアラブル」に。なるほど。

じゃあ、世の中にどんなウエアラブルデバイスがあるのかというと、例えばパソコンと連携するメガネ「Google Glass」や、同じくパソコンと連携する腕時計「アップル・ウォッチ」などがよく知られているようです。

他にも、心拍や呼吸をモニターするスポーツ用ベストや、身体活動量を記録・分析してくれるブレスレットなど、新しいウエアラブルデバイスが日々続々と開発されているんですね。今、ウエアラブルは日進月歩の時代に入っています。

さて、パンツの分野にはどのくらいのウエアラブルがあるのか? ……というと、今のところ残念ながら皆無のようです。あのマイクロソフト社は、女性用の下着(ブラ)とスマートフォンと連動させた「スマートブラ」なるウエアラブルを試作中ですが、男性用の下着にはまだ着手してくれていません。

フリパン読者の皆さんなら、ここで当然の疑問が湧くのではないでしょうか。

なぜパンツにウエアラブルが無いのか?

その大きな理由として考えられるのは、「ゴワゴワして穿き心地が悪くなるから」。パンツに限らず、着る物をウエアラブルデバイスにするには、布地に板状のセンサーや電線などを入れ込むことが必要になってくるんですね。すると肌に馴染まず、ゴワゴワしてしまう。ジャケットやベストならある程度許せるかもしれませんが、肌の上に直接穿くパンツとなると、少々具合が悪い……。

ところが最近、このゴワゴワの原因であるセンサーと電線に、革新がもたらされました。非常にソフトで柔軟なものが開発されたのです。そのセンサーと電線は、グイグイ折り曲げてもビヨーンと伸ばしても大丈夫。身体へのフィット性が抜群で、ウエアラブルには最適なものなのです。

これを開発したのは、独立行政法人 産業技術総合研究所でウエアラブルの最先端を研究している「エレクトロデバイスチーム」。このチームが3倍以上に伸ばしても大丈夫な電線を開発した、という発表が最近ありました。(電線とは言っても、実際は直径1mm以下の糸のようなもの。専門的には「導電配線」と呼ぶそうです。また、微弱な電流しか流れない電線なので、触れても感電することはありません)

普通、布地に使われている糸だって3倍には伸びませんよね。なのに、極細の電線が3倍にも伸びるとは摩訶不思議。でも、タネあかしをすると、伸びる理由はけっこう単純なんです。それは、「電線がバネ状になっているから」。

下の右側にあるのが、研究所がリリースした拡大写真です。通常時は直径1.1mmのバネ(コイル)の形をしている極細電線が、ビヨーンと伸ばすと約3倍の長さに。

しかも、ただ伸びるだけでなく、その中を流れる電流の状態がほとんど変わらないというのだから、ウエアラブルデバイスにはもってこいというわけですね。さらに、20万回以上折り曲げても切れない抜群の耐久性。これは大したものです。

産業技術総合研究所のもう1つの画期的開発は、自由に曲げ伸ばしできるセンサー。

従来のセンサー(中でも圧力を検知するもの)は、多少フレキシブルではあっても、プラスチックの板といった感じのものがほとんど。身に付けた時の違和感は拭いきれませんでした。ところが、新開発のセンサーは、布地に貼り付けて引き伸ばせば、布地といっしょに伸びるといったシロモノ。

その秘密は、導電性のある短い繊維を、向きを揃えてギッシリと並べたことにあるそうです。その様子を示したのが下の写真。左側が2倍に引き伸ばしたところ。右側が顕微鏡写真です。短繊維が並んでいるのが分かりますね。

画像出典:独立行政法人 産業技術総合研究所
(正確には、この写真はセンサーそのものではなく、センサーに用いる電極です。この電極を2枚重ねるとセンサーとして機能します)

さて、このようなフィット性の高いセンサーを利用すると、どんなウエアラブルデバイスが出来るのか?

産業技術総合研究所は、とりあえず靴底(体重のかかり具合を検知・分析するもの)への応用を考えているようです。パンツファンとしてはちょっと残念ですね。

そこで、フリパンラボ独自に、ウエアラブルパンツのアイディアを出してみました。まずは、「筋肉の動きを分析してくれるスポーツ用パンツ」などはどうでしょうか?

実はこれ、昨年ロンドンで開かれた「ウエアラブル・テクノロジー・ショー」に、ほぼ同じものが出品されているんですね。

画像出典:myontech

運動中の筋肉の動きをモニターして、正しい動きかどうかを教えてくれるというショートパンツです。見るとあちこちにゴワついたセンサーシートが入っているようですが、新開発のセンサーを使えばゴワゴワ感がなくなり、もっと快適になるのではないでしょうか。

スポーツがそれほど好きじゃない人には、パソコンのキーボードが付いたウエアラブルパンツなどはいかがでしょう?

これも実はジーンズとしては実現しているんです。オランダのデザイナーErik De Nijsが作った「Beauty and the Geek」がそれ。だから、キーボードをパンツに付けるのもそう難しくないはず。

photo by Bruce Sterling on flickr

電子ドラムを仕込んだズボンも既に存在しているので、これもパンツに応用可能。お尻の左右を叩くとドラムの音が、前のあそこに触るとカウベルの音がする、などというのはどうでしょうか?

上の例はどれも、はっきり言って、パンツである必然性はないもの。ズボンでも十分なわけです。パンツを深く研究するフリパンラボとして、その程度では満足できません。そこで、さらに無い知恵を絞り、思いついたのが「おならで体調を診断してくれるパンツ」。(臭い話でごめんなさい)

最近、吐く息の成分を分析してガンを診断する研究が世界的に進められているそうです。台湾やイスラエルの大学では、そのためのセンサーが近年開発されたとのこと。また、将来はガンだけでなく、糖尿病をはじめとしたいろいろな病気が、吐く息で診断できるようになるはずだという話も聞きます。

息で診断できるなら、おならでだってできるはず。

パンツに仕込まれたセンサーがおならの成分を分析して、その日の体調や病気の有無を診断してくれる。前日の食べたものの栄養バランスを知らせてくれる。そんなパンツが出来ればどんなに素晴らしいことか!

パンツはこれまで、デジタルテクノロジーから取り残された感がありました。しかしこれからは違います。ウエアラブル技術の進歩で、パンツにもついに革命の時がやって来たようです。

フリパンライター

稲垣 恒太郎

猫のような好奇心を持つフリーライター。特に、流行っていないものが好き。クラシック音楽が趣味。ウラジミール・ホロヴィッツの大ファン。20代まではブリーフ派だったが、現在はトランクス派に転向。

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